vol.045 クロとの対話

 コラッ! おいらが誰か分かるか。お前らのだんなが30年前に可愛がっていた、今は天に昇っちikeda_kaze51_001まった初代黒柴のクロだ。(今の黒柴14歳になるドンじいさんは俺の三代目の舎弟だ)

聞いたことあるだろう? おいらのことは……。
こら、てめえらドン、チョコ、ティコとやらのチビ! しゃんとしろ。
俺の話を聞け。
耳の穴かっぽじってよく聞きな。
エアコンの効いた部屋の中でグーグー寝てばかりいるな。俺の頃はクーラーなんてなかったぞ。扇風機の時代だ。
でも、これさえもだんなの部屋にはなかったな……。

もう30年以上も前のこと。だんながペットショップでおいらを見つけてくれた。当時はペットショップなんていうしゃれた代物ではなかったが・・・。
飼主から預けられ、ずーと引き取り手がなかったおいらを、一目見て気に入ってくれ、誕生日も過ぎていたのに、
「えらい利口で、ただみたいな値段。こりゃ幸運だ」
とすぐ家に連れて帰り、彼女もいない独り身の、不思議なだんなとの一人と一匹の暮らしがここから始まったんだ。

これでおいらもやっとのんびり落ち着けるかぁ~と思いきや、翌日になりとんでもない目にあったぞ。
駐車場で車の横においらを座らせ、何をするかと思ったら、車を黙っておいらにぶつける。こりゃびっくりするけど、ほんとの話さ。2~3度車のバンバーにぶつけられたぞ。
それからおいらは動いている車には二度と近づかなかった。

これがだんながおいらをパートナーに迎えた自由への洗礼、手荒いだんなの教育さ。
何故、そうしたか分かるか?
そう、おいらを自由にさせたかったのさ。おかけでおいらは自由を手に入れた。朝飯を食った後、だんなは近くの自分の工場へ。おいらは好き勝手に近所へでかける。車に2~3度ぶつけられたせいで、車の多い大通りには行かないし、走ってくる車には近づかなかつたものさ。

おいらは、思いっきり自由を楽しんだ。
となりのばあさんの家へ遊びに行ったり、近所の子ども達と仲間になったり。
時たま、となりのサンダルをくわえて帰り怒られたりもした。
しばらくサボると、「池田さんのちのクロ、最近来ないね」と子どもたちが心配して迎えに来たりもしたもんだ。だんなの家の周りがみんなおいらの友達、ダチ公さ。

夕方になり、だんなが仕事から帰ると、「ピィ~、ピィ~」とだんなが犬笛を吹く。それが犬にしか聞こえない、人には聞こえないだんなとおいらを結ぶホイッスルの音、帰ってこいの合図さ。
帰ったら、だんなと一緒に晩飯を食い、だんなの部屋の片隅に宿を借り、また朝になると、人は働き、犬は外へ遊びに出かける。そんな夢みたいな暮らしが30~40年前まではあったものさ。

そう……確かにあった。
ただ、当時は狂犬病のワクチンが全ての犬族の万能薬と思い込んでいただんなは、今でいう混合ワクチンや、フィラリアの予防薬なんて知る由もなかった。それでおいらは風邪をひき、それがもとで肝炎にかかり、あれよあれよというまに、あの世行き。
参ったぜ!
おいらの事があってから、だんなも犬について少しは勉強した。
コラ、3代目の黒柴ドン。おまえはもう14年目で、目はかすみ、耳は遠くても、よく食べ、元気そのものだろう。おいらへのだんなの無知の反省のおかげで、おまえは随分と長生きしてるな。

おいらは、4年の短い生涯だったけど、精一杯犬として生き、だんなへの忠義も尽くした。
「ピィ~、ピィ~」の人には聞こえない、目には見えないホイッスルの音でしっかりだんなとつながっていたものさ。これがだんなとおいらの、形のない切っても切れないリードさ。

雪の降る寒い寒い冬の日。肝炎がひどくなり、だんなの家でずっと動けずに寝ていたおいらは、もう今日で終わりと自分でわかると、ヨロヨロとだんなの働くキャンピングカーの工場へ。
500メートルの距離を、雪の中、何度も立ち止まり、転び、最後の命をかけてだんなのもとへ。
「お~クロ。どうしてここまで来た」
と不思議そうなだんなの顔。
「寒かったろう」
とだんなの胸におおわれ最後の別れを告げた。命がけの最後の忠義さ。

あれから、30年……。でも、目には見えない、形のない切れないリードは今もだんなとしっかりつながっている、そんな気がする。

そうそう、上野の忠犬ハチ公はおいらの大先輩。アメリカ映画の「HACHI」のHACHI公はおいらの舎弟分。今でも天国ではおいらのダチ公よ。

コラッ! ドン、チョコ、ティコ。
だんなが暑い工場から働いて家に帰った時には、ワンワンうるさい位の歓迎の挨拶は果たしな。それが忠義ってもんだ。
それから、朝、だんなと散歩に出かける時はちゃんと起きて、しっかり歩け。特にチョコ。ひきづられながら歩くな。おいらから見れば情けなくて涙が出らぁ。

おいらはだんなと一緒に散歩なんて行った事一度もなかったぞ。しゃんとしろ。それが俺たち、犬族と人とのパートナーとしての仁義ってもんだ。

まあ、先々代のクロ。
お前の言ってることはよくわかる。ありがたい言葉だ。筋も通っている。
しかし、今の時代、お前と暮らした日々の再現は悲しいけどもう出来ない。リードという紐を引っ張って犬は人と一緒に出かけないと、人間族から大ブーイングが。

それにあの頃とは桁違いにふえた車がどこまでも入ってきた。あの頃みたいにピィ~というホイッスルの音でつながるなんて出来なくなった。
それから、夏の暑さも尋常じゃない。暑い暑い今の季節は、犬はバテて寝そべりもするさ。……時代も変わった。

しかし、ピィ~というホイッスルの音は、見えない絆として今も私の心の中に残っているよ。その絆は、私からカミさん、息子、娘へ? それに周りのいろんな人へも広がった。
お前から見ると頼りない今の3匹の犬もしっかりしたお前の舎弟分さ。私が何日か家をあけて帰ったとき、ワンワンとうるさいくらいの喜び方は、今の時代、自由を奪われた犬族の精一杯の仁義のアピールさ。

それと、カミさんが家をあけた時、いもしないカミさんの部屋の前で淋しそうに匂いをかぎまわるのも、犬族の忠義の証さ。カミさんが帰ってこようものなら、嬉しさのあまりおしっこを部屋中に撒き散らす。うれションも信愛の証だよ。

3000年前からといわれている、犬と人とのパートナーシップのDNAは、クロ柴のクロ、おまえの中にも引き継がれていたし、今の3匹の犬にもそれは綿々と流れている。
そうそう、クロ。
お前のだんなの仕事のキャンピングカー。今、キャンピングカーに乗っている人間様の半分は、犬と一緒に旅に出るそうだ。
ここ30年で随分と変わったものだ。おまえとはボロボロのライトバンでいろんな旅に出かけたね。
今は、お前の舎弟分の3匹もキャンピングカーに乗って旅に出る。時代は変わったぞ。
また、いつかクロ……。天からの声を、うちの3匹の犬たちに聞かせてやってくれ。少しはシャンとするかな?

 

来月10月の9日(土)、10日(日)、11日(月)、福岡国際センターにて「犬を連れて旅に出よう」というテーマで、キャンピングカーフェアーが開催されます。
当方は、軽キャンパー「ホワイトカントリー」のワン(WAN)ボックスタイプを出展予定です。

【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■

犬の寿命は、大型犬で10~11年、小型犬で12~13年ぐらいだといわれています。
だから、ペット好きで、何代かにわたって犬を飼っている人は、必ず一度か二度は悲しい別れを経験します。

だけど、そんな命の短い犬だって、飼い主にとっては「生涯の思い出」となりえるわけで、今回の池田さんのエッセイは、そのような犬と人間の交情をコメディタッチで、それでいながら、とてもリリカルに描いています。

おかしくて、だけど哀しい。
そして読後に爽やかな印象を残す。
犬を描いたエッセイの中でも秀逸な出来かもしれません。

キャンピングカーとペットの相性の良さは、これまでもいろいろな方面から取り上げられてきました。
キャンピングカーには断熱加工を施したものが多く、飼い主が買い物や食事のために犬を残してクルマを出ても、残された犬が暑さや寒さで消耗することもあまりありません。
また、構造上ペットがくつろげる場所も取りやすいので、犬にとってもキャンピングカー旅行は快適なのです。

それを裏づけるように、『キャンピングカー白書2010』では、ペットを飼っているユーザーの比率が39.1%であると伝えており、日本の平均的なペット飼育率(29.5%)を超える率を示しています。

キャンピングカーと犬の相性が良いという認識は、今後さらに浸透していくことでしょう。
そんなタイミングで描かれた犬と人間の交流記。
まるで天国にいるクロが、池田さんの隣りにやってきて、昔のように飼い主を見つめているようです。

池田さんとクロとの「心のコール&レスポンス」。
何度も読み返せる素敵な対話物語です。

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