vol.044 記念すべき日

先日、古い友人が、久しぶりに小学生のかわいい娘さんを連れてわが家を訪れました。「犬を見せてください」というのです。

話を聞くと、その友人の3人のお子さんが、近所の犬をとても可愛がっていたらしいのですが、その犬が死んでしまい、みなガッカリしているとか。

子供たちの嘆きは、いつしか「犬を飼いたい!」コールに発展し、男親であるその友人の心も動かされたのですが、ただ、お母さん一人がガンとして首を縦に振りません。

お母さんを説得する良き智恵はないもののか…というわけで、
「うまい作戦があれば、そのご指導に与りたい」
というのが、友人の意図だったわけなんですね。
つまり、突然の来訪は、子どもたちの切ない願いを実現してやりたい父親のしたたかな優しい計画だったのです。

早速、うちの奥さんは、「犬はこんなに利口な動物ですよ」と、張り切って3匹の犬に得意芸を披露させました。
「待て」
「伏せ」
「止まれ」
もちろんこういう初歩の芸は完璧。

さらに、
「うちの犬は、少し吠えるけれど、人には絶対噛み付かない」。
「トイレの始末も、3匹それぞれスタイルは違うけれどみな完璧だ」とうちの奥さん、自信たっぷりに説明します。

ただ、その日は午後からは佐世保のハウステンボスへ犬を連れて出かける日と重なっておりました。

私たちと、連れていく犬が玄関先から消えていくまで、外にも飛び出さず、黙って待っている一番のチビ犬ティコに、しきりに感心する友人とそのお子さんたち。
「今度は、お母さんも一緒に連れておいでね」と私。
犬との快適な暮らしや犬を飼う楽しさは充分に伝わったかな…と自負しながら、彼女らの願いが叶うといいなあ~と思わずにはいられませんでした。

さて、午後からはそのハウステンボスへ。
この日は九州地域限定発行の「犬吉猫吉」の主催する『お散歩ウォッチング』という会員限定イベントの日だったのです。

春らんまんの会場は、見事なチューリップでむせかえるよう。
入口で、愛犬のスナップ写真をプロのカメラマンに撮ってもらった後、レクレーションのミニアジリティコーナーへ。

うちの犬が参加したのは、ちょっとした障害物の並ぶコースを、時間内に通過できるとご褒美がもらえるというゲームでした。

私たちのすぐ前に出場した犬は、サッサッサッサーと、完璧に通過。
さて、うちの犬の番。
午前中、友人に「利口な犬です」とさんざんアピールした、あのわが家の代表選手チョコに熱いエールを送ります。

スタート
さあ、行け!

……ところがスタート直後から、おとりのエサにつられガブガブガブとタイムロス。
「少し出遅れたな。でも名犬にも失敗は……」 ^^;
と、またチョコに向かって叱咤激励。

しかし、少し進むと、再び次のおとりのエサをガブガブガブ……。

「はい、タイムアウト、失格~ ……」
ということになりました。

友人には、さんざん「名犬」と自慢したわが家の誇りであったチョコ。
私も妻も、ひそかに赤面した次第です。

この日は、「ハウステンボス」の記念すべき日だったのです。
15年ぶりに(会員限定ですが)、ハウステンボス内のほぼ全域を オーナーと愛犬が自由に散歩できるように開放した日でした。

グレートピレニーズ(大型犬)、コッカ-スパニエル、ダックスにチワワなど、大小の犬160頭あまり。

驚くほど多くの犬が集まっているにもかかわらず、ワンワンとうるさく吠える声はほとんど聞こえません。
おしっこをした後は、飼い主が水をかけます。もちろん糞の始末もみな完璧。

「千年の未来」をうたった九州のテーマパークに160頭のワンちゃんが集合したわけですが、犬も飼い主もマナーをしっかり守り、「自然と生物との共生」というテーマを見事に実現したのです。
これから、こういう波はますます広がっていくでしょう。きっと……。
そう願っています。
2010年、4月4日のことでした。

【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■

春らんまんの1日。
池田一家のペットをめぐる心温まる交流風景が描かれています。
久しぶりに来訪した友人と、そのお子さんたちの愛らしい風情。
池田家の奥様と、旦那さん、そして息がピッタリ合ったペットたちの躍動する息づかい。
そんなものが、淡々とした平易な筆致の中に、巧みに浮かび上がってきます。

圧巻は、“名犬”のはずだったチョコちゃんの、ハウステンボスでのイベントにおける迷走ぶり。
そこはかとない“おかしみ”を漂わせた文章に、チョコちゃんの可愛らしい後ろ姿がくっきりと目に浮かびそうです。

のどかな日常の一コマをさりげなく綴ったエッセイのようでいて、そこには「ペットと人間が共有できる空間の拡大が人々の幸せをもたらす」という池田さんのペット哲学が、静かに、しかししっかりと盛り込まれています。

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