vol.035 池田流アウトドアフード学

 「娘さんよく聞けよ、山男にゃホレるなよ。山で吹かれりゃよ、若ゴケ(未亡人)さんだよ」
…ご存知ですか?yama-fukei2
山男の歌です。

若い頃の私は、この歌詞を逆に解釈し、つまり山男になれば、娘さんがホレてくれるということなんだな。…と、私なりの論法を組み立てたました。

山に登っていればきっと素晴らしい娘さんに会える!
そう信じて、ほとんどいつも一人旅。

当時、カッコいいとされたのは、単独行。
孤高の修験者のように、黙々と頂上を目指していれば、そういう私の姿に感銘してくれる娘さんが、きっと声をかけてくれるはずだ。

そう思いつつ、10代の終わり頃から20代にかけて、ひたすら山登りを繰り返してきたのですが、結局35歳になるまで、「娘さん」に言い寄られることはありませんでした。

しかし、山にハマったおかげで、アウトドアに対する智恵がずいぶん身に付きました。
特に食材に関しては、「池田流アウトドアフード学」を披露することができます。
エッヘン!

登山は、何日も山野をさまようわけですから、食事がとても大切です。
その食材に関しても、軽量で、調理の効率がよく、何よりもおいしいということが大事です。
日本人の主食は米。だから、米さえあれば、どんなおかずでも日本人は満足することができます。
しかし、米は重いし、研ぐ必要があるので、単独登山には向きません。

そこで考えたのが、マカロニ。
そう閃いたときには、「やったぁ!」と思ったものでしたが、なんのことはない。
当時、イタリア製西部劇のマカロニウェスタンが流行っていたり、TV番組「太陽にほえろ」に出てくる若い刑事の名前がマカロニデカだったり…。
巷に、あまりにも「マカロニ」という言葉が溢れすぎていたため、それが頭に刷り込まれていただけでした。
青春は、いつも思いつきで、突っ走ります。

マカロニは、米と比べ、研ぐ・洗うというプロセスを必要としません。
中が空洞なので、熱が伝わりやすく、小量の水さえあれば調理できます。
マヨネーズあえ、ふりかけ仕上げ、シンプルな塩味。
どんな味付けでも、それなりに、ひっそり連れ添う世話女房のように、ささやかなディナーの盛り立て役を務めてくれます。

そんなこともあって、私はずいぶんマカロニさんのお世話になりました。
独りで山に登り、マカロニ食って、また山へ。
そんな男にはドラマチックな恋も、スイートな夢も、遠い世界の話。

でも、おかげでマカロニは、私にとって、ちょっぴりスィートで、ちょっぴりビターな「青春の味」になりました。

私のフィールドは、歳とともに、ハードな単独登山から軟弱な(?)オートキャンプに変わりました。
それと同時に、アウトドアフードに対する肩入れも、マカロニからうどんに変わりました。
お勧めは、「五島うどん」。
マカロニと同じように軽くて、調理も簡単。そして保存性が高いことが特徴です。クルマの中に、ポンと放り入れておけば、いつでも食べたいときに好きな量だけ食べられます。
普通のうどんの場合は、うっかり炊き過ぎるとふにゃっふにゃになってしまうのですが、この五島うどんは、ゆで過ぎてものびないし、コシがなくなりません。
その秘訣は、五島名産「つばき油」がたっぷりと入っているからです。
緊急時の保存食のようなクセして、おいしい! そしてヘルシー!
アウトドアフードの王様です。

え? 「五島うどん」をご存じない?

長崎県の五島列島の名産品です!

ずっと以前に、民放テレビ番組の番組で紹介されたこともあります。
「全国のおいしいうどんのチャンピン」を決める番組でしたが、そこで五島うどんは全国の第2位。
ちなみに1位から5位までの他のうどんは、すべて生麺。
「五島うどん」だけが乾麺でした。
だから、保存が利くわけですね。

では、この五島うどん。どうやったらおいしく調理できるか。
そっとあなたに教えます。

ヒントは、つゆが決め手です。
五島の近海で捕れる「飛び魚」という魚があります。地元では、これを「アゴ」と呼んでいます。

このアゴで出汁を採った辛口のつゆが、五島うどんには欠かせないのです。
アゴ出汁には、ビン入りも、粉末もあります。クルマに保存しておくには粉末がいいでしょう。
さらに、ネギとショウガ、カマボコ。
こういう具が揃っていれば、味がもっと引き立ちます。
これからの季節なら、熱湯たっぷりの中に放り投げて、アツアツで食する地獄炊きがお勧め。もちろん、かけうどんや、つけめんもOK。
温めても冷やしてもおいしい「オールシーズン・オールマイティフード」です。

五島うどんは全国のデパートでも売られています。ネット購入も可能です。
ちなみに、私は五島うどんさんから、宣伝料はいっさいもらっていません。
単なるファンです。

これからはオートキャンプのシーズン。
秋も本格的になり、暑さもなく、寒さもなく、一番のキャンプシーズンに入ります。

地には焚き火の光。
天には星空の明かり。
アーシィな音楽をバックグランドミュージックに、「うどん三昧」の夜はいかがでしょう。

カントリー、リズム&ブルース、ロックンロール、時にはちょっぴり気取ったメロウなジャズ。
アゴ出汁を使った「和文化」の五島うどんを舌で味わい、スィートでバタ臭い「洋楽」を耳で楽しむ。

辛口・甘口・和・洋が入り交じったミスマッチなコラボレーション。
しかし、それが絶妙のアンサンブルに変わるところが、キャンプの面白さです。

【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■

今回の連載エッセイは、「食」に対する考察です。
マカロニとうどん。
どちらも、日本人なら日常生活の中に溶け込み過ぎて、ほとんど注意もされないような食材です。
作り方もいたってシンプル。「料理」とも呼べない食べ物です。

なのに、そのそっけない食べ物が、池田さんの手にかかると、料理の達人が奥義を極めて創り出す料理のように、とても奥の深いものに変わるから不思議。
高価な食材と一流のシェフばかり採り上げる世の中のグルメブームが、突然、底の浅いものに思えてしまいます。

「食」に対するイメージをがらっと変えるような、この池田マジックはどこから生まれてくるのでしょう。

答えは「風の中」

…というエッセイのタイトルどおり、風が吹き渡る場所、つまりアウトドアの現場から生まれてきます。

池田さんのエッセイは、その中心テーマが何であれ、常に「野外」と結びついているところに特徴があります。

大自然を背負ったとき、人間の身体からは、「文化」のプロテクターが少しずつはぎ落とされ、五感が自然の波長にダイアルを合わせるようになります。
そのとき、細胞組織が生まれ変わるように、舌の感覚も変わります。
「文化の味」と「自然の味」の違いが、分かるようになってきます。

生産効率を優先してつくられた「文化の味」は、複雑に見せかけても奥行きが浅く、「自然の味」は、シンプルながら、奥行きの深さを秘めています。
ちょうど、化学調味料と天然出汁のようなものです。

今回の「池田流アウトドアフード学」は、そこのところを突いたエッセイです。それはまた、人間にキャンプやキャンピングカーの素晴らしさを伝える物語にもなっています。

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