vol.029 青春の味は甘いのか、苦いのか

今、50代~60代の団塊の世代にフェアレディZやハーレーダビッドソンがものすごく売れているそうです。フェアレディもハーレーも、若い頃の団塊の世代にとっては「あこがれの名車」。定年退職を間近にひかえ、心と財布の両方にゆとりを持てるようになった団塊の世代が、若いときに叶えられなかった夢を取り戻そうとしているのでしょう。

私たち団塊の世代は、クルマに対して特別な思いを持っていました。クルマがあれば、どんなところにも遊びに行ける。鉄道のない町にも。バスの通らない田舎にも。クルマは「自由」であり、「夢」であり、そして何よりも(私たち男にとっては)ガールハントするときの最強の「武器」でした。

私も20代の始め頃には、オンボロのホンダN360に乗って、よく街中を徘徊したものです。当時は、交通量も少なく、クルマそのものも少なかったので、道路脇にクルマを止めてもほとんど咎められることはありませんでした。そういう街角にホンダN360を止め、町を通る若い女性めがけて、片っ端から「このクルマで、海までドライブしませんか?」 そう声かけたものです。しかし、うまくいった試しがありませんでした。

土曜日の夜は、そのクルマを駆り出してディスコにもでかけました。そして、踊っている女性に対して一人ずつ声をかけ、「夜の海にドライブにいきませんか?」と同じ言葉を繰り返したものです。しかし、ここでも、相変わらずフラれっぱなし。結局、「彼女」をGetすることは一度もありませんでしたが、ディスコでは音楽と出会うことができました。

タバコの煙とミラーボールの照明の彼方から、耳をつんざくほどの大音量で、ローリングストーンズ、ビートルズ、CCR、ジェームズ・ブラウン、マービン・ゲイらの音楽が私を迎えてくれたのです。流行りのロックやR&Bは、もちろん家のラジオでも聞いていましたが、魅力的なステップを踏む女の子たちのシルエットを眺めながら、腹まで響く音量と、キラキラ輝く照明のなかで聞く音は、それとはまったく別のものでした。ディスコでかかっていた当時の音楽を聞くと、いまだに体中の血液が勢いよく沸騰し、心臓がエイトビートの心拍を刻み始めるのは、たぶんそのときの影響だと思っています。

団塊の世代にとっては、女の子をゲットすることも新しい音楽を知ることも、すべてクルマがきっかけになっていましたから、いまだに「ときめき」の原点にクルマがあります。

フェアレディZやハーレーがオジさんたちに売れているというのは、まさにそれらが当時の「ときめき」の頂点として輝いていた商品だからです。でも、最近これらの高級スポーツカーや高級バイクと並んで、キャンピングカーが団塊世代の人気を集めていることをご存知ですか?それはおそらく、腹も出て髪も薄くなり、若い娘をナンパすることを諦めたオジさんたちが、せめて、今の奥さんだけには嫌われないようにしようと、夫婦ともに楽しめるクルマとして注目してきたからでしょう。

私にも、カッコよく海岸どおりを飛ばすスポーツカーの代わりに、木漏れ日の優しさを教えてくれるキャンピングカーがあり、ディスコで軽快なステップを披露する女の子たちの代わりに、おいしいコーヒーを入れてくれるカミさんがいます。いくら青春時代が「ときめき」の時代であったとしても、私はもうあの時代に戻りたいとは思いません。微かに甘く、やんわりと苦い思い出が心に残っていれば十分です。

フェエレディZやハーレーに熱中しているオジさんたちも、たぶん同じ思いでしょう。 キャンピングカーの中で、コーヒーを飲みながら、あの頃ディスコでかかっていたリズム&ブルースをカミさんと一緒に聞く。今の私には、それが最高に心地よい時の過ごし方です。ロケーションは、船の行き来が一望できる、港に接した桟橋の上。かかる曲は…

Sitting in the morning sun, I’ll be sitting when the evening comes…

そう。オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」。黒人の若者が、やるせない気持ちを胸に秘めたまま、朝から夕方まで、ずっとサンフランシスコ湾の景色を眺め続けるという歌です。

「何に生き甲斐を感じていいの分からないから」

「何を始めたらいいのか分からないから」

その青年はずっと港のドックに座って、潮の満ち引きを見ている。そういう情景が綴られています。

この「時間を持て余している」というやるせない感覚!それこそ青春の特徴だとは思いませんか?さびしくて哀しい歌なのですが、それが都会の喧噪に疲れたときには、なぜかとても優しく聞こえます。

この歌が秘めている、微かな甘さとやんわりした苦さ。スイート&ビター。熟年になってから思い出す「青春の味」そのものが、この歌に秘められているように感じます。

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